お知らせ

食から地域の豊かさを考える ―気仙沼での視察を通して

日本初のスローシティである気仙沼市を訪問し、循環型酪農の現状や、地域に根ざしたスローフードのあり方について学んできました。

本吉地区で酪農を営む小野寺ファームでは、自給飼料を基本に放牧も取り入れながら、無理のない搾乳を行い、しっかりと目の届く数の牛を育てています。
季節ごとに異なるものを食べ、日を浴びながら暮らす牛たち。そこから生まれる乳製品には、品質を一定に保つために管理されたものとはまた違う、その時々ならではの味わいがあるといいます。
均一化によって品質や味わい、価格が安定することにも、もちろん大切な意味があります。一方で、季節や環境によって生まれる違いを、そのときにしか出会えない味わいとして楽しむこともできるのではないでしょうか。
不均一さを一期一会のものとして受け止めることで、食べるという行為が単なる消費にとどまらず、記憶に残る体験になっていくように感じました。

約30頭の牛、すべてに名前が付けられている

また、スローフード気仙沼の理事長・菅原昭彦さんからは、気仙沼におけるスローフードの始まりや、これまで大切にされてきた考え方についてお話を伺いました。特に印象に残ったのは、「食そのものを目的とするのではなく、食を手段として、自分たちの住むところに愛着を持つことを目指している」という考え方です。
食の素晴らしさを自慢したり、外に向けて見せたりすることだけが目的なのではなく、自分たちの暮らす地域を好きになることを大切にしている。だからこそ、長く活動が続いてきたのだろうと感じました。
名物だから紹介するのではなく、なぜこの食や暮らしがこの地域に生まれたのかを知ること。そこに、その土地ならではの面白さがあります。そして、「ここで暮らすことには、こんな豊かさがある」と伝えるための手段のひとつとして、食がある。この視点は、地域における食のあり方を考えるうえで、とても大切なものだと感じました。

魚市場近くにて。こいのぼりではなく、かつおのぼりが印象的。

例えば、リアス・アーク美術館の食に関する地域の歴史展示では、山間部と海辺に暮らす人々の婚姻が盛んになった背景に、海の幸と山の米を分け合う目的があったことが紹介されていました。食は単に空腹を満たすものではなく、人と人との関係を結び、地域の暮らしや文化を形づくってきたものでもあります。
小野寺さんのお話にも、通じるものがありました。アニマルウェルフェアを目指して取り組みを始めたというよりも、「牛にとってこちらの方がよいだろう」という自然な判断をひとつずつ積み重ねた結果、今の飼育の形になったといいます。

今回の訪問を通して、地域の文化は、何か大きな理念を掲げることだけで生まれるのではなく、日々の暮らしのなかで重ねられる、ひとつひとつの意味ある選択によって育まれていくのかもしれないと感じました。
地域の食を知ることは、その土地の自然や歴史、人々の営みを知ることでもあります。食を入り口に地域への理解や愛着を深めていくこと。それもまた、スローシティのまちづくりにつながる大切な視点なのではないでしょうか。

前橋市地域おこし協力隊
村上 史

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